2014年10月12日日曜日

【観劇】烏丸ストロークロック『神ノ谷第二隧道』

昨日京都にて、烏丸ストロークロック『神ノ谷第二隧道』を観劇したので感想を書きます。
(ストーリーについてはほとんど書いていませんが、これから観る方で少しでも内容に触れるのが嫌な人は読まないでくださいね)
烏丸ストロークロック『神ノ谷第二隧道』

[ 出演 ]
阪本麻紀
桑折現
柏木俊彦
今井美佐穂
弘津なつめ

[ 脚本・演出 ]
柳沼昭徳

[ 音楽 ]
山崎昭典
中川裕貴(N.O.N、swimm)

[ スタッフ ]
舞台監督:山中秀一
照明デザイン:魚森理恵
照明操作:澤雅展
舞台美術:杉山至
宣伝美術:六川クリエイト、橋本純司
制作協力:有限会社quinada、秋津ねを(ねをぱぁく)

アトリエ劇研の高い天井に向かって、不気味に組み上げられた舞台美術。異様な無機質に包み込まれたこの空間は、この作品をすでに知る人もそうでない人も、ひんやりとしたひずみを感じざるをえないだろう。
この作品は前作、「国道、業火、背高泡立草」のスピンオフ作品ということでもあるが、前半の「火粉、背高泡立草」は、デッサン時代に広島のC.T.T.で初演された、わたしにとっても思い出深い作品だった。
そこからさらに後半の「神ノ谷第二隧道」に繋がっていくのだが、スピンオフ作品とは思えないくらい、ずっしりとしたエピソードが大栄町という町に織り込まれていた。

一番特徴的に感じたのは、随所で起用されている「交差」の手法だった。それは単に会話だけにとどまらず、過去や現在、場所、人物を超えて舞台上を縦横無尽に行き来する。
一人の俳優が急に時間も場所も別の人間を演じ、今会話していた相手とは違う人間に呼びかけたり、別のシチュエーションで独白をしている二人の俳優があるタイミングで同じセリフ(それは物語の中で重要なキーワード)を同時多発したり、とにかく、交差に次ぐ交差、重なりに次ぐ重なりの連続だった。
前半の「火粉」では、一人の女優(阪本麻紀)が現在時間を共有しているかつての恋人だったり、過去に暮らした母親だったりするのだが、このグラデーションの描き方が実に見事。行為やセリフが「恋人」とも「母親」とも取れる段階からはじまり、徐々にそして確実それらに移行していく。
それらは主に雄吉(桑折現)の膨大な独白によって語られるのだが、説明的な感じは一切感じなかった。むしろ二人の演技力が相まって加速していく緊迫、悲しみ、絶望。単に回想シーンとは名づけがたいほどの緊張感に満ちた時間だった。
後半にはこの「交差」はさらに増え、とある人物と「神の谷」について語られる。
父親(柏木俊彦)が娘(弘津なつめ)との滑稽な(だが物悲しい)やり取りの中で、徐々に重要な物語の核心に近づいていくのだが、この柏木氏の演じる人物の行き来が特に難しかった。内容×仕組みの難解さ。事態は混ざりあいし混濁していく。いや、逆に透明化していくとうのだろうか(しかしまだ動いていない)
複雑さに迷子になって集中力が拡散してしまう危険との隣りあわせの時間だったが、作品の芯が強いので、個人的にはそこまで不安におもわず、もしかしたら一番引き込まれるところもここかもしれない。

わたしは、独白や一人語りが多用される作品が好きではない。それらの持つ説明的な要素や説教臭さが嫌いなのだ。
しかし、柳沼氏の作品は徹底的にその可能性を追求してくる。
今回の作品でいえば老女(今井美佐穂)役は、まさに説明的な役割を大いに担っていたと思うが、とってつけたような感覚を全く受けなかった。
作家が、演出が、細部にまでこだわっているリアリティを役者が丁寧に演じている。それは理解できるが、ただそれだけでここまで成立するものなのだろうか、と観劇中に自問自答してしまった。
個人的に、この作品を通して、今井氏の存在感によって紡がれる演技がわたしはとても好きだ。彼女の独白、目力にはとても引き込まれた。
交差の構造上、彼女が存在しないパラレルなシーン(普通だったらはけさせてしまうような場面)も生じてくるのだが、決してストップモーションするわけでなく、かといって当然積極的に芝居に参加するでもなく、まるで盗み聞きしているかのように、微妙な空気で「ふつうに」佇んでいる今井氏の安定した演技力は素晴らしかった。

正直、短編とするには詰め込み過ぎを感じる部分はある。多用している交差するシチュエーションも難解だ。前述したが個人的には長い独白も暴力的で嫌いだ。
しかしそれは裏を返せば、観客の想像力を信頼しているからこそできることのような気もする。
最後にさくっと説明してしまえば安心する。わかりやすくする糸口をどこかで提示しておけば見る側もやる側も不安がぬぐわれる。しかし柳沼氏はそれをしない。確かに安心した役者の芝居なんてみてもつまらないような気がする。
その柳沼氏の妥協のなさと、ただでさえ不自由な演劇という手段で、あえて真正面からの正攻法をもって描こうとうする挑戦というか、スピリッツに、演劇に携わる人間として好感を抱けるし、烏丸の作品を多くの人に観てほしいと思わされる。
何より、観終った後語り合うことができる芝居は楽しい。
できればそれはがっかりした感想ではなく、「答え合わせ」のような時間でありたい。
どう感じたかを言い合ったり、あれは実はこのことだったんじゃないかとお互いの予測を語ったり、感動した瞬間を我先にとカードを出し合うように、語れる時間であってほしい。

これは、第七劇場の鳴海康平氏が、「かもめ」の広島公演のアフタートークで語ってくれたことなのだが、「わからない事がわからない作品だったかもしれません(笑)。でも今日、友達と一緒に来られた人は『何がわからなかった?』と帰りにお茶でも飲みながら話しをしてみてほしい。一人で来た方は家に帰って家族に『よくわからなかったけどこんな演劇を見た』と話をしてみてほしい。今過ごした時間を、他の誰かと共有する。その時間こそが演劇によってもたらされる豊かな時間だと思うから」(こういう感じの内容だった、というだけで鳴海氏の言そのままではありません)

わたしはこのお話がとても好きで、今でもいたるところで勝手に引用させてもらって語っている。
現に、友人たちとの片道5時間の帰路の車中は非常に豊かな時間だった。
そして結論は「夜公演も見ればよかったね」というものだった。
そう、散々作品について話した後にもう一回見てみたくなったのだ。
いや、1400公演をみた帰着時間が2400ということを考えると1800公演をみて帰ることは物理的に困難なのだが(笑)一緒に時間を分かち合った友人と、同時にそう思えたことはとてもうれしいことだった。
そんな作品だった。



長くなってしまいましたがこれが、わたしの烏丸ストロークロック『神ノ谷第二隧道』を観た感想です。
京都公演は明日まで、その後東京、三重と続くとのこと。
もし、ご興味のある方はぜひとも。

--- 京都公演 ---
【日時】
10月9日(木)19:30
10月10日(金)19:30
10月11日(土)14:00/18:00
10月12日(日)14:00/18:00
10月13日(月・祝)14:00
【会場】 
アトリエ劇研
〒606-0856 京都市左京区下鴨塚本町1
TEL 075-791-1966
【チケット前売料金】(日時指定・自由席)
一般 2,500円、学生以下 2,000円[要学生証]
*当日券は前売券の500円増となります

--- 東京公演 ---
 【日時】
10月25日(土)19:00
10月26日(日)14:00/18:00
10月27日(月)14:00
【会場】 
こまばアゴラ劇場
〒153-0041 東京都目黒区駒場1-11-13
【チケット前売料金】(日時指定・自由席)
前売一般・学生共 3,000円
*当日券は前売券の500円増となります
TEL 03-3467-2743

--- 津公演 ---
 【日時】
10月31日(金)19:30
11月1日(土)14:00/18:00
11月2日(日)14:00
【会場】  
津あけぼの座スクエア
〒514-0004 三重県津市栄町1丁目888 四天王会館3F
TEL 059-222-1101 
【チケット前売料金】(日時指定・自由席)
一般 2,500円、22歳以下 1,000円
*当日券は前売券の500円増となります

【チケット取扱い】 
■烏丸ストロークロック
 ・TEL 080-9745-7825
 ・MAIL ticketあっとまーくkarasuma69.org
  (メールの場合、お名前・ご希望日時・枚数・電話番号をご記入の上お送り下さい)