2017年3月10日金曜日

【かもめ演劇祭】順位と12本の作品の感想です。

1位(かもめ賞) 神奈川 地区代表
チリアクターズ「しらずのうちに」
わたしもここが1位だろうな、と思いました。
戯曲も計算して書かれているし、演出も面白く巧みでした。
しょうもないことを全力でやる面白さ、ライブであることのおかしみ、洗練されているなあと感じました。照明効果の使いかたもうまいです。
決して新しいことをしているわけではないけれど、基礎、オーソドックスを丁寧に組み立てることが効果を産んでいたと思います。
何より役者がいい。声が良い。
桐朋の卒業生で結成されたとあって、基礎がしっかりしているのがわかります。全くストレスなく聞こえるセリフ、かなりハイスペックな歌唱力、そういう俳優の長所を余すところなく活用されているところが素晴らしいと思いました。

2位 東京 地区代表
日穏 ~bion~「観覧車」
シンプルな会話劇。
忠実な時系列で丁寧に描かれていて、こちらも実力を感じる作品でした。観覧車→偶然知らない二人が乗る→上で止まる→なんとなくお互いの事を話す、というこれもありふれたシチュエーションです。
それを面白く感じさせることが、底力なのだと思います。
この短い作品の為にあの揺れる観覧車の美術を作成したということも、素晴らしいです。
手を抜けるとこに手を抜かないのも実力とセンスだと思います。

3位 東北 地区代表
Gin's Bar「イーハトーヴの雪」
もろに震災を描いた作品でした。
役者の雰囲気や、審査員評でもでた「ひとり芝居にみえない」という戯曲力を感じました。
ただ、これは審査員の話でもあったのですがこの手の作品には辛くなりにくいという傾向は否めない気もします。
広島の人間が原爆を描くことに少し似ています。ただ、戯曲そのものの質が良く、現実に近いからこそ描けるものや皮膚感はそのものの悲劇を差っ引いても素直に作品性を受け止めることができました。
個人的には、セリフは早すぎると思ったし、もっと一つ一つのエピソードに間が欲しかったです。あんまりにも流暢すぎることと、説明的すぎる部分もあった気がして「今、たまたま出会った人に、とつとつと語る」というリアリティを妨げているような気がしました。
ラッピングしていたマシュマロは、行方不明の妹さんと甥御さんと、万が一でも巡り合えたら、の希望のような気がして(そこがまた胸に刺さる)そのためのものだったはずだから、トシコさんに味見であげた後も、ちゃんと丁寧にラッピングしてほしかったなあ、とか、歌ったからのどが渇いた、と言うセリフもなくても十分伝わったと思いました。

4位 北海道 地区代表
わんわんズ「恋はいつでも、レイアップ?」
審査員の評価が高かった作品でしたが、わたしは苦手でした。
ただ確かに、最後のバスケットボールや、ゴールの仕組みは上手かったです。よく思いついたなあ、と感嘆しました。
苦手な理由は、エピソードそのものに入り込めなかったことでしょうか。
最後のボールとゴールの効果に向かい過ぎていたせいか、作品のドラマ自体があまり面白く感じられず。文学性とは無縁ということを謳っていたので、それもよしなのかもしれませんが、作品を面白く見せることについて、手あかの付きすぎたエピソードやシチュエーションをいかに書くかという事については追求できるんじゃないかなあと思いました。

5位 台湾 代表
明日和合製作所 Co-coism「石屎森林 Concrete Jungle」 
わたし的にはここが最高だったです。
同性愛を描いている作品で同性愛を描くことへの切なさとか挑戦とかめちゃ感じました。
審査評で「人物の入れ替わりが判りにくい」というのがありましたが、わたしは全然わかりにくくていいと思いました。
2人のうち1人が恋人になったり医師になったりするんですが、その判りにくさというか、グラデーションも含めて、演出の意味があると感じたからです。俳優もめちゃ巧い。台湾の演劇専門の大学で学んだ力。原語のテレサ・テンの「時の流れに身をまかせ」もよかったなあ・・・・切なさがもう・・・
帰広後、車の中で熱唱してました、テレサ・テン。

6位 韓国 代表
劇団名作トウモロコシ畑「時計のいた場所」
ここも、演者の基礎能力がすごく高いと感じました。
楽器の生演奏のレベルも高い。サックスすごく良かったです。女優さんのパワーがすごく、ありふれた話なんですが涙を誘うラストでした。
ただ、演出上はいくつか矛盾を感じました。
効果的にたくさんのひまわりの造花の美術があったんですが、設定は冬。亡くなったお父さんが夏が好きだったから、亡くなったお父さんが若返って現れた効果でひまわりが咲いていたり、セミが鳴いたりしていたんだけど、そうすると原設定の「冬」は娘の衣装でしか表現されてなくて、むしろ娘の方の衣装がおかしくみえてしまいました。時計の効果もあんまり感じなかったです。後ろに字幕が出るんですが、強調したいところが大きな文字ででたりしていたのがなんかコントっぽくて、ふつうの字幕で良かったなあと思いました。

7位 関西 地区代表
ThE 2VS2「矛盾/全国女子校生選手権」
ショート2本の作品でした。結構長く感じました。
テンポもいいし俳優も上手でしたが、コントと何が違うのかな、っていうのが感想です。ノリと勢いで突っ走る感じ。わたし自身が演劇のドラマ性をが好きなタイプだから不得手だっただけで楽しめるものには間違いないです。笑いに重点を置いている分、ストーリーはステレオタイプなものでした。
ラサール石井さんの講評で「最後に大きなホームランを打つためには、そこまでのひとつひとつのヒットをきっちり決めていかないとダメなんだ」というのが印象的でした。

8位 東海 地区代表
東海連合「そして、彼女は」
すごく緻密な戯曲でした。言葉のセンスもいいし選び方もうまい。主人公の妄想のストーリーも観ていて楽しかったです。
全くセリフがない2名の俳優が登場人物として出てくるんですが、演出の妙だなあと思ったのは、この俳優が主人公の独白の途中、関係あるようなないような、コンテンポラリーな身体表現をしてるんですね。
その妙な説得力がよかったです。普通ならただしゃべらないだけで状況説明してしまいがちな無言劇を、表現としていっこのものしてあるという。
うーん、でも最後のダンスは全然協調できなかったなあ・・・
服を脱ぐことで女が変化を遂げるというのもエロスに目覚めるというのも、男性の思い込みで幻想だと思っているので(笑)

9位 戯曲選抜 代表
選抜戯曲チーム「あしたのこと」
全体的にエンターテイメント性が強い作品のなかで、かなりシリアスなものを描いていて、わたしは好感が持てました。
ただ、この男性2人はただ仲がいいのかな?と勘ぐってみてしまって。
男友だちの部屋に遊びに来ている、その彼は寝巻のような格好でベッドに居る。恋人なのかな?とか。もしかしたら放射線に侵されているとかそういう設定だったのかもしれませんが、そういうくだりもなく、結局そのことは作品に出てこなかったんだけど、どちらにしろ中途半端な印象がしました。
どばーーーって血が出てきたときは最後列に居ても「ひーー」って思いました。この驚きが演出には不可欠なんだなーと。
あと、あんまり役者のセリフが聞こえなくて・・声が小さいわけじゃないんですが、現代的な言い回しのセリフが多く、聞きづらいセリフがおおかったので余計にそう思えたのかもしれません。

10位 九州 地区代表
ブルーエゴナク「あるはなし」
名前は聞いてました、ブルーエゴナク。作品は初見。
少ない情報で、あえて時間をさかのぼらせるストーリーは本当に難しいことに挑戦してるなーと思いました。ところどころ小劇場のセリフのおかしみ、みたいなもの巧かったと思います。
ただ、いまひとつうまく成立してないところも多々ありました。審査員評でも言われてましたが、どうしてフィギュアをずっとワキに挟んでいないといけなかったのだろうか・・・。女優さんのセリフもおもしろいのにおらびすぎて響いてしまい、あまり聞き取れなかった。
お笑いコンビの設定なんですが、そのコンビがするコントのレベルが低すぎて、こういうとこもきっちり微妙におもしろくなくかけたらよかったなあ、と。女の子がそのコントへのダメ出しをするなかで、ネタではなくリズムや緩急について言っているんだけど、「いや、リズムの前にネタだろ!」的な(笑)リズムや緩急のダメさは演じられていなかったので、もったいないなあと思いました。
ラストは良かったです。

同点11位 四国 地区代表
シャカ力「オオカミ少年」 
シャカ力の作品を観るのは3本目。
前回のよりは面白かったです。わたしは好きでした。
ただ、言葉遊びにとらわれ過ぎてくどくなってしまってる感じもしました。
あと、3本とも設定が赤ちゃんだったり小学生だったり幼稚園児だったりするのはなぜだろう?
その無茶さが面白いところもあるんだけど、なんとなくその設定が足を引っ張っているのかも?と感じました。
ここもまた男性の役者2名とも声がすごく良くて、いいですね。
今後も観る機会が多い劇団だと思いますので、次回は長編に挑戦してほしいです。

同点11位 中国 地区代表
コムたんたん「月にはホクロ」
制作でついていった劇団です。
なので、稽古段階から、みていますからあまり真っ当な評価は出来ないんですが。そしてわたしにも責任ある事でもあるので。
経験不足、知識不足。敗因のふたつはここかな。まだ勝負できるところまでもってこれなかった、というのが結果にでた感じです。
みんな一生懸命頑張りました。一生懸命頑張ったけど、一生懸命頑張ったことは評価にはならないことが、この世界のもっとも苦しく厳しい部分だと思います。演劇はたぶん選ばれた人にしかできない。でもその選ばれるか選ばれないかはだれも判らないし、誰が選ぶわけでもない。そのあいまいで不確定な不安のようなものと、どこまで闘って、勝ちうるかどうかだと思うんです。この惨敗が彼らの今後の糧になることを願っています。